2016年5月29日日曜日

【メディア掲載】伊勢志摩サミット 専門家の評価、厳しめ サミット首脳宣言(5/29、中日新聞)

▼伊勢志摩サミット 専門家の評価、厳しめ サミット首脳宣
2016年5月29日 中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/article/feature/iseshimasummit/list/CK2016052902100012.html

首脳宣言を採択して二日間の幕を閉じた主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)。世界を取り巻く課題について主要国の首脳がメッセージを発信する一年に一度の機会だけに、宣言内容には厳しい目が注がれる。経済、女性、環境など主要課題の専門家の評価を聞いてみると-。

■女性 具体策や資金不明

 <日本女性監視機構(JAWW)代表の織田由紀子さん>もともと期待が低かったが、政策面で「女性」という言葉に四十八回も触れており、その点では評価できる。これまでのサミットで積み上げてきた女性の活躍に関する議論に新しいイニシアチブ(主導権)をつけた格好だ。ただ、具体的にどう実施していくかについては、あまり記述がなく物足りない。各政策を実行に移すための資金についての言及もなかった。ぜひ、今後のサミットでは、首脳の中でも男女比のバランスがとれるように期待している。

■経済 日本と各国に温度差

 <三重大人文学部の深井英喜教授(経済学)>世界経済の下方リスクへの言及はあるが、具体的な危機の原因を特定せず、当たり障りのない宣言。評価はC。宣言で「世界経済の回復は継続している」と触れたように、サミット参加国の状況はさほど悪くなく、日本が一人負けの状態。アベノミクスは失速しており、危機をあおる安倍晋三首相と、各国首脳との温度差を感じた。公共投資などの財政出動は、需要喚起の一時的な措置。非正規雇用で拡大する格差を是正し、中間層を育てるなど根本的な経済政策の確立が急務だ。

■課税逃れ 途上国の側に立たず

 <NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの大野容子さん>タックスヘイブン(租税回避地)を利用した課税逃れ問題に対し、前進を見ないまま閉幕した。G7は課税逃れをしている多国籍企業や富裕層に甘く、不利益をこうむる市民や途上国の貧しい人々の側に立ったとは言えない。課税逃れで途上国が失っている税収入は年間十九兆円と言われる。この一部でも財源になれば、母子保健や教育の充実に大きく寄与する。「議題になった」ことの一点のみが評価でき、何ら新たな合意や取り組みは盛り込まれてはいない。

■環境 石炭火力の言及なし

 <NPO法人気候ネットワーク理事の平田仁子さん>会議全体の中で、気候変動問題の位置付けが極めて低かった。人類にとって甚大な脅威であるこの問題に対するG7の対応としては全く不十分だ。地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」を年内に発効させる目標を明示したことは評価できる。一方で、二酸化炭素排出が多い石炭火力発電の規制に一切、言及していないのは残念。再生可能エネルギーへの転換に消極的な議長国・日本の姿勢が、環境やエネルギー問題の扱いを小さくとどめてしまう結果になった。

■市民協働 市民の声を反映せず

 <みえNPOネットワークセンター代表理事の松井真理子四日市大教授>市民社会との協働(パートナーシップ)について言及されていたのが人権の項目の中だけで、ちょっと残念だった。直前に実施した市民サミットでは、市民協働が重要だとG7に提言したので、仕組み作りをどうするかに注目していたが、市民の声はあまり反映されていない。限られた時間の議論なので、すべて網羅はできないとは思うが、課題を指摘するだけではなく、それを市民とどう取り組むかという実行性についても触れてほしかった。